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最高裁判所第二小法廷 昭和41年(行ツ)96号 判決 1968年11月29日

岡山県児島郡興除村大字中疇六八四番地

上告人

小橋工業株式会社

右代表者代表取締役

小橋照久

右訴訟代理人弁護士

笠原房夫

岡山県倉敷市島味野一丁目一五番二号

被上告人

児島税務署長 高木茂

右当事者間の広島高等裁判所岡山支部昭和四〇年(行コ)第四号法人税更生決定取消請求事件について、同裁判所が昭和四一年八月三一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人笠原房夫の上告理由第一点について。

趣旨は、上告会社においてその所有に係る訴外富士商事株式会社の株式四〇〇株を二名の上告会社役員に譲渡したのについて、原判決がこれに取締役の承認があつたものと認定した根拠を失当とし、かつそれを商法二六五条の解釈を誤つたものと非難する。

しかし、原判決の引用する第一審判決が右認定の根拠とした所論の各事実は、前記株式の譲渡について取締役会の承認があつたうえでなければ普通起りえないものであるので、右判決は、それら事実から右取締役の承認の存在を推認したのであり、これを失当ということはできない。論旨がそれら事実は株式譲渡の承認にあたらないといい、また右承認の有無とは関係ないものとするのは、右のような判示の趣旨を正解しない反論であつて、首肯しがたい。また、原判決は、甲第一、二号証をもつてしても右株式譲渡につき取締役会の承認がなかつた事実を証するに足りないものとしたのであつて、これら書証を、所論のように、右の承認のあつた証拠として採用したものでないことも明らかである。論旨は、ひつきよう原審の専権に属する証拠の採否ないし事実認定を非難するにすぎず、採用のかぎりでない。

同第二点について。

論旨は、原判決には、前記譲渡株式の評価に関して事実の誤認、法令の解釈適用の誤りがあるというのである。

しかし、原判決が、前記富士商事株式会社の株式の譲渡時の時価を、当時同社と対当合併を予定されていた株式会社藤井製作所の株式取引価額を基準として判定することは、必ずしも失当とはいいがたい。もつとも、原審における上告人の主張のように、右譲渡時に前後して藤井製作所に別に増資決議が存したとすれば、当時の同社の株式の価額に新株引受権の影響がなかつたとは断じられないが、本件更正処分においては、評価の確実を期する見地から、譲渡時におけるよりはるかに値下りした前記合併時における藤井製作所の株価をもつて譲渡時の株価とし、これを基準として上告会社の譲渡株式を評価しているのである。増資新株の割当がすでに終つた後の右合併時における藤井製作所の株価には、前記新株引受権の影響の存しないことはいうまでもない。そして、右合併時における同社の株価を前記基準に採用したことは、上告会社にとつて利益でこそあれ不利益とする余地はなく、上告会社がこれを不当とする理由のないことは、原判決の説示するとおりである。してみると、原判決に所論の瑕疵は認めがたく、論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

(昭和四一年 第九六号 上告人 小橋工業株式会社)

上告代理人笠原房夫の上告理由

第一点 原判決には法令の解釈を誤つた違法がある。

一、取締役が自己又は第三者の為に会社と取引を為すには取締役会の承認を受くることを要す(商法第二六五条)。取締役会の承認は取締役会の決議による。

取締役会の決議は法定数の取締役が会合して決議しなければ決議ありとは謂えない。

取締役会の承認が必要であつて取締役の過半数の承認があるのみでは足りない。

又、取締役会の承認は個々の取引について為されることを要し包括又は概括的の承認は許されない。

二、ところが原判決は(一審判決理由引用)上告人の謂う上告会社よりその取締役二名に対する株式譲渡は取締役会の承認が無いので無効であるという主張を否定しその理由として

1 原告から被告に提出された昭和三六年六月三〇日児島税務署受付の法人税額中間申告書(乙第四号証)深付の第一期中間決算報告書の貸借対照表(昭和三六年四月三〇日現在)資産の部固定資産欄には有価証券として金九三万円の記載があり、同第一期中間決算附属明細書の有価証券欄には右九三万円の内訳が記載され、それによると富士商事株式として金四〇万円の記載があり、一方同じく原告から被告に提出された昭和三六年一〇月三一日付の法人税額確定申告書(乙第五号証)添付の第一期決算報告書の貸借対照表(同年八月三一日現在)資産の部、固定資産欄には有価証券として金五五万円の記載があり、同第一期決算附属明細書の有価証券欄には、右金五五万円の内訳が記載され、それによると富士商事株式の記載はないこと

2 右確定申告書の第一期決算報告書は原告会社の全取締役及び監査役の承認が為されていること

3 本件株式各二〇〇株式各二〇〇株あて譲受けた原告会社代表取締役小橋照久、専務取締役小橋正志はいずれも昭和三六年五月三〇日付で富士商事に対し名義書換請求を提出したこと

が認められ右事実に争いない事実即ち原告の請求原因

1 原告は農機具の製造販売を業とする株式会社であるが昭和三六年度(昭和三五年一〇月三一日から昭和三六年八月三一日まで、以下同じ)の法人税について所得金額を金六三一万八〇〇円、この税額を二四一万六七〇円とする確定申告をした。

2 ところが被告は昭和三七年六月二七日付決定をもつて所得金額を金一、〇四五万三、〇〇〇円、この税額を金三八七万八、五七〇円とする更正決定をし、右同年六月二八日原告に到達した。

3 右更正の理由は、原告所有の訴外富士商事株式会社(以下単に「富士商事」という)の株式四〇〇株(以下「本件株式」という。一株の額面金一、〇〇〇円)を額面金額で原告会社役員に譲渡しているので、一株の時価金八、〇〇〇円との差額金二八〇万円を所得に加算すべきであるとする外四点の加算と二点の減算をし、差引増加所得金四二三万二、一八七円とすべきであるというにある。

4 原告は右更正決定に対し、原告所有の本件株式を原告代表取締役小橋照久、専務取締役小橋正志に譲渡するについて取締役会の承認を欠き無効であるとの理由で、昭和三七年七月一九日再調査の請求をした、ところが被告は同年九月五日右再調査請求を棄却したので同年一〇月三日広島国税局に対し、審査請求をしたが昭和三九年一月一七日付で右審査請求は棄却され、原告は同日右通知を受領した。

5 ……(昭和三六年二月二二日代表取締役小橋照久と専務取締役小橋正志に各二〇〇株譲渡した行為……)

被告主張中

原告会社の取締役の氏名、身分関係

代表取締役 小橋照久

取締役 小橋正志(照久の子)

同 小橋佐夜子(照久の妻)

同 小橋千鶴(正志の妻)

同 松浦喜市(照久の親族)

及び昭和三六年一〇月三一日原告会社において定時株主総会が開催され、商法第二八一条に基く計算書類の承認がなされた事実を合せ考えると本件株式譲渡につき原告会社取締役会の承認があつたものと認めるべきであると判定せられた。

三、右事実を以つて取締役会の承認があつたものと認めるのは当らない。

法人税確定申告書に為した取締役の承認はその決算書について包括的に承認したもので商法第二六五条に規定する個々の取引について承認したものではない。

第一期中間決算附属明細書と第一期決算報告書附属明細書の有価証券欄の記載を比較して前者にあつた富士商事株式会社の株式の記載が後者に無いことを以つて直ちに取締役会の承認のあつた事由の一つとせられて居るが記載が無くなつたことは直ちに該株式が会社から取締役に譲渡したことに決まらない。

然るに斯く認定する飛躍であつて株屋に売却しても記載は無くなる点に於て違はない。

又譲受けた取締役二名より名義書換請求書を提出したことを以つて取締役会の承認の事由の一つとせられて居るが取締役会の承認決議により名義書換請求書を提出したわけでもなく譲受けた取締役個人より名義書換請求書を提出したもので取締役会の承認の有無とは関係が無い。

然も該株式はその後上告会社に名義書換済である。

四、原判決は甲第一、二号証の記載内容について「その記載内容はとうてい真実に合致するものとは認め難く後日これを他人に見せようとする作意に出たものと認めるほかはない」と判示せられたが後日これを他人に見せようとする作為即ち再調査審査請求に当り本件株式の譲渡は取締役会の承認が無いことについて明確ならしめる意図にあつたとしてもこれあるが為に本件株式の譲渡について取締役会の承認があつた証拠にはならない。

第二点 原判決には事実誤認法令適用に誤りがある。

一、本件譲渡株式の評価について原判決は「本件株式の譲渡時(昭和三六・二・二二)の藤井製作所の株式(額面五〇円)は東京店頭株としての取引価格が一株八三〇円新(無償分)八〇〇円があつたことが認められ、」又「合併時の存続会社(同会社)の株価が新株(額面五〇円)一株につき四〇〇円となつたと認定し且合併時に於ける藤井製作所の株価(額面五〇円一株につき四〇〇円)は増資による新株引受権利付きの株価とは無関係と認められる」と判示された。

二、一株八〇〇円のものが半値になつたということは一般株式の大暴落による場合は免も角、一株八〇〇円は増資含みの時価であることが判り一株四〇〇円の株価は増資権利落ち後の株価である。

合併時に於ける藤井製作所の株式と被合併会社である富士商事株式会社の株式が等価であることは間違無いが、譲渡時に於ける富士商事株式会社の株価が藤井製作所の株式と時価を等しうすること早計誤認である。

三、富士商事株式会社の株式は上場又は店頭株ではない。

非上場株式にも客観的交換価値があるから時価はある。

課税は時価によるべく時価は右客観的交換価格である。

時価の算定について、当時処分された実例があればその処分価格は時価算定上一応の目安となり又その株式と同種同等のものの持つ売買実例によるもよい。

これの例がない場合は会社の積極資産から負債を控除した純資産額を発行済の全株式数で割つて得た価格が株式の実質的な価値として即ち時価とみるべきである。

然るに漫然合併会社の株価を基準として評価した原判決は事実誤認、法令適用を誤つた違法がある。

以上

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